「敗戦60年にあたって」声明
私たち日本バプテスト連盟は、これまで「反ヤスクニ宣言」(1982年)、「戦争責任に関する信仰宣言」(1988年)、そして「平和に関する信仰的宣言」(2002年)を表し、その告白に誠実であることを求めて歩んできた。
それら三つの宣言は、いずれもかつて日本の引き起こした侵略戦争の過ちを反省し、戦争に荷担しまた助長した私たち自身の戦争責任を表白しつつ、アジアの隣人たちへ赦しを求めた告白であった。
私たちは繰り返し告白する。
私たちは、侵略戦争の歴史の中で、主イエス・キリストの福音に生き抜くことができなかった。
「神ならぬものを神としない」という最も重要な信仰姿勢をあいまいにし、天皇を神格化した。国家・天皇のために戦って死ぬことを美しい生き方だと讃え、「大東亜共栄圏の樹立」という思想の中にこめられていた自己優越意識と近隣諸国への軽蔑を自覚できなかった。
そして、目的を遂行するためには戦争は必要だと考えた。私たちは、戦争に反対できなかった。それどころか、戦争を賛美してしまった。それゆえ、アジア・太平洋地域の2000万人を超える戦争犠牲者たちの命を奪った罪責は、私たち教会にも確かにある。
戦後、私たちは長らく、自らの戦争責任を省みることを忘れてきた。
高度経済成長を謳歌する時代風潮の中で、それらの経済成長が再び別の形で近隣諸国を収奪していることに気付けずに歩んできた。戦前・戦中の私たちの「むさぼり」と「迎合」の罪を、戦後も克服しえなかったことを、私たちは改めて表明しなければならない。
今年2005年、私たち日本社会は敗戦から60年を迎えた。戦争への深い反省から掲げられた憲法の平和主義――戦争を永久に放棄して平和をつくりだす歩み――を、私たちはどれだけ自らのものとしえたのだろうか。この60年を振り返るとき、残念ながら私たちはあの反省から逆の道を歩みつつあると答えざるを得ない。
今、悲しむべきことに、かつての侵略戦争、その軍国主義と植民地政策を正当化する声が大きくなり広がりを見せている。靖国神社への参拝を繰り返す小泉首相や石原東京都知事への支持は依然として高い。教育現場での日の丸掲揚、君が代斉唱は強制され、それを拒否する教員たちへの処罰は公然と行われている。外国人は排斥され、人権を無視した強制送還が相次いでいる。自衛隊はイラクに派兵され続け、もはや常駐化している。沖縄の苦しみと痛みを無視して、米軍基地機能はさらに強化されつつある。9月に実施された衆議院選挙では、連立与党だけで憲法「改正」を決議できる3分の2の議席を占有し、今や一部の野党や財界も加わって憲法「改正」の主張がいたるところで声高に語られている。そこでは憲法の平和主義を大切に生きる思想はすでに過去のものとして葬られつつある。
これらすべてが、かつて日本の侵略行為によって計り知れない苦しみを背負わされたアジア近隣諸国の新たな悲しみ、新たな不安となっている。私たち日本社会に生きる者の歴史認識はかくも薄く、謝罪の質はかくも軽く、平和への願いはかくも弱いものであったのか。戦後60年の節目に、これらの問いが私たちに重く迫ってくる。
しかし、主イエスは、今もこの暗やみの中に立ち、十字架を背負い、罪人を赦し、招いておられる。ここに「世の光」がある。だからこそ、私たちはこの赦しと招きに与りつつ今一度、信じ、告白する。
私たちが服従するのは、十字架で敵を赦し、引き裂かれた者の和解のために祈り、命を捨てた主イエス・キリストのみであることを。主イエスの赦しの恵みに生きる私たちは、赦すこと、愛すること、分かち合うことしか許されていないことを。それゆえ、私たちは問題解決を武力・暴力に求めようとするすべての道に反対する。軍事力での国際貢献にも反対する。軍備増強にも、派兵の法整備としての憲法「改正」にも、国家による戦死者の顕彰行為としての靖国参拝にも反対する。過去の過ちを「美」へと転化し、歴史を歪曲しようとする風潮に反対する。特に、皇国史観教育の復活にも等しい昨今の教育基本法の「改正」の動きに反対する。
歴史の記憶は、共に生きる者同士の間で共有されなければならない。私たちは、アジアという地域でそこに住む人々と神の恵みを分かち合い、平和を造りだしつつ生きていきたい。それゆえ、私たちは独善的な歴史認識と決別し、自己保全、自国中心の考え方から解放され、アジアの隣人たちと歴史を共有し、記憶を継承しながら、未来への豊かな構想と協働にあずかっていきたい。
主イエスの十字架の福音、平和と和解の福音に私たちは生きる。再び主が来られるときまで、私たちは主の死を告げ知らせ、共に結ばれて生きる和解の福音を担いつづける。
主イエスが私たちに先立ち、伴い、平和と和解の器としてくださるように。アーメン。
「平和を実現する人々は、幸いである。」マタイ福音書5章9節
2005年11月18日
日本バプテスト連盟 第51回定期総会